大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(行ス)2号 決定

(一) 本件各退去強制令書に基づき相手方等の国外への送還が執行されると、相手方等は事実上本案訴訟を維持することができないのみならず、他日右訴訟で相手方等が勝訴の確定判決を得たとしても、再入国その他送還執行前に相手方等が置かれていた原状をそのまま回復しうることの制度的保証も確立しているとはみえない以上、相手方等は前記送還の執行により回復の困難な損害をこうむることは明らかであり、右の事情のもとにおいては右損害を避けるため緊急の必要性があるということができる。このことは本件の如き現状に対する重要な変更を内容とする行政処分の執行のもつ特殊性に由来するものであるから、いやしくも行政処分一般に対して提訴ないし訴訟係属自体を理由として執行停止の必要性を認めるものと非難するのは相当でない。行政事件訴訟法第二五条第二項所定の「回復の困難な損害」に当るかどうかは、当該処分の不停止によって維持される公共の福祉と比較衡量し、それを犠牲にしてもなお救済に値する程度のものかどうかによって相対的に論定すべきものであることは抗告人所論のとおりであるとしても、本件において抗告人の挙げる管理令所定の在留資格制度、外国労働者の移入を認めない国の基本政策ならびに送還停止が及ぼす国際的および国内的影響等は、いずれも主張自体一般的、抽象的であって、より個別的、具体的事情を斟酌することを必要とするところ、本件において前示回復困難な損害の否定に結びつくような事情はこれを認めうる資料がない。以上によれば、抗告理由第一掲記の抗告人の主張はすべて採用できないとすべきである。

(二) 抗告人は、本件執行停止の申立は、「本案について理由がないとみえるとき」(行政事件訴訟法第二五条第三項)に該当すると主張し、前記事実関係のもとでは相手方等について管理令所定の退去強制事由ありとされる蓋然性は必ずしも稀薄であるとはいえないけれども本件各退去強制令書発付処分を違法とする相手方等の主張がそれ自体明らかに失当であるとはとうてい認められず、右処分の適否の判断において、右処分が違法とされる余地が全く存しないというわけではないから、現段階において、本案について理由がないとみえると断ずることは相当でない。叙上に関する抗告人の抗告理由第二の一、二は採用できない。

(三) 次に相手方等が本件各退去強制令書発付後約一年六ケ月(相手方梁洋子については約七ケ月)の間訴訟を提起する等なんらの措置を講じないでいて、送還の日程が具体的に決定した段階に立ち至って本案訴訟を提起するとともに、本件執行停止を申立てたものであることは記録上明らかである。送還の停止が、従前日本政府と韓国側で行われてきた送還の交渉を、相手方四名に関する限り、完結せしめず、日本政府の立場を幾何か失わせることとなるとしても、仮りに本案訴訟の勝敗その他によって執行停止が解消すれば、本件停止の時点までに到達した交渉の成果を続行すれば足りるものと解され、その場合多少の曲折は免れないにしても、従前の経過を無にし、その努力を徒労に帰せしめるものともいいえないから、そのことの故に相手方等の本件執行停止の申立を著るしく信義に反するものと断ずることは許されず、他に本件執行停止の申立が信義に反し、認容されるべきでないとすべき事情は見出せない。

(浅沼 蕪山 高木)

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